社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~④
2023/04/17
実態貸借対照表ベースで実質債務超過である場合のDES について仕訳は下記です。下記のとおり仮に0 評価とすると、債務額と0 の差額が債務消滅益となります。これを申告書で調整します。以下の数値はすべて仮値です。
1 )会計処理及び税務申告書上の処理
債務超過DES の場合、税会不一致が生じます。会計処理及び税務申告書上の仕訳等を列挙します。当該仕訳は一貫して評価額説を採用しています(実務通説)。
① 債務超過DES 対象会社において
イ 会計処理
令和4 年3 月31日
借 入 金 15,000,000 / 資 本 金 32,500,000
借 入 金 30,000,000 / 資本準備金 32,500,000
借 入 金 20,000,000
ロ 税務処理
別表四 加算・留保
債務消滅益計上もれ 65,000,000
別表五(一)
(増加項目)資本金等の額 65,000,000
② 債権者側において(法人債権者がいた場合において)
イ 会計処理
令和4 年3 月31日
有 価 証 券 15,000,000 / 貸 付 金 15,000,000
ロ 税務処理
別表四 減算・留保
債権譲渡損 15,000,000
2 )法人住民税均等割の資本金等の額の基準についても調整が加わる可能性もあります。
今回、実行後無償減資しても均等割の計算に影響を及ぼさないことになります。しかし実態貸借対照表で実質資産超過の場合、DES の場合、無償減資すること(又は住民税均等割削減スキーム)することは効果的です。外形標準課税にも留意が必要です(外形適用法人のほうが税額が減少することもあるのでシミュレーションは必須。この点、令和5 年度税制改正大綱も参照必要)。
DES とみなし贈与の関係については下記のとおりまとめられます。DES により取得した株式は財産評価基本通達により評価(時価純資産価額方式により評価)します。それと出資金額(貸付金)とを比較し株式の評価額が出資金額(貸付金)より超過した場合、その超過した部分の金額については増資前の出資者=既存株主への株式含み益の移転となります。
すなわちこの差額がみなし贈与の課税の対象になり得ます。また、株式の評価額が出資金額(貸付金)に満たない場合のその満たない部分の金額については、新株の発行により利益移転しているため、みなし贈与課税となります(相法9 、相基通9-4 、評基通185)。
法人税基本通達9-1-13⑴売買事例のあるもの、との規定は、課税実務上は、売買に限定されず、売買と近似の取引にも及びます。
典型的なのはDES です。
例えば、令和4 年6 月30日にオーナー貸付金につきDES を実行したとします。第三者割当増資になりますので、増資価額の税務上適正評価額は、法人税基本通達9-1-14(4-1-6)又は時価純資産価額です。ここでは時価純資産価額を採用したと仮定します。このあと、令和4 年11月30日にオーナーが死去したとします。オーナー死亡に係る相続税申告の株式評価額は相続税評価額(原則)です。
しかし、その後の税務調査で「DES 実行時と死亡時が近い。相続税申告に適用される『その時の時価』とはDES 実行時の時価純資産価額である」と指摘された事例があります。根拠として、相続税法第22条及び、法人税基本通達9-1-13⑴の売買実例価格も広く解釈し直近の取引価額に該当すること等が列挙されました。このケースは、結局、「このままオーナー貸付金があると相続税申告で額面評価になってしまう、今のうちに株式化して株価低減策を図ろう」と思っていた矢先に結果論としてこうなってしまったのです。
東京高裁平成17年1 月19日判決では「類似業種比準法は、評価基準上、非上場株式についての評価原則的な方法であり、現実に取引が行われる上場会社の株価に比準した、株式の評価額が得られる点にて合理的な手法であり、非上場株式の算定方法として最も適切な評価方法であるといえる。」と述べています。
なお、当局に対する反論材料して下記の裁判例が用いられますが、前提条件が中小零細企業にあてはめることはできず、抗弁の材料としては弱いです。
Z259-11273東京地方裁判所平成19年(行ウ)第752号法人税更正処分取消等請求事件平成21年9 月17日判決 【非上場株式の評価】
6 第三者割当と売買とは私法上の法的性質を本質的に異にするものであり、第三者割当を巡る状況も相まって、第三者割当に係る株式の発行価格自体も割当て時点の当該株式の市場価値を反映するものとはいい難い上、税法上も全く異なる規律に服するものであることにかんがみると、連基通8-1-23⑴及び法基通9-1-13⑴の「売買実例」には第三者割当は含まれないものと解するのが相当である。
したがって、本件第三者割当に連基通8-1-23⑴及び法基通9-1-13⑴の適用があることを前提としてその発行価格である1 株当たり30万円をもってF 株式の価額と評価すべきであるとする原告らの主張は理由がない。
判示で
「F 株式は、本件株式売買が行われた平成15年11月25日当時、同年10月31日にW への上場の承認を受けて同年12月8 日にW へ上場すべく公募が行われていることから、公開途上にある株式で、当該株式の上場に際して株式の公募が行われるもの(連基通8-1-23⑵及び法基通9-1-13⑵)に該当」との記載がありますが、これらから中小零細ではこの裁判例が直接使えるものではないということがわかります。事案の規模が全く異なります。
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